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当院の治療

支持的精神療法

検査として、性格からくる不安の感情を分析します。

想定外の出来事に対する恐怖心(パニック傾向)、周囲への不信感、抑うつ傾向などを分析します。さらに流産に関係する心理社会因子も分析します。その結果に基づき、妊娠前から妊娠初期までの大切な時期、不安や辛さを和らげ安心できるよう、専門の助産師と私がサポートしています。

不安が強い方には、子宮内の細動脈を細くしないために、妊娠前から最低限の精神薬を頓服で、飲んでいただくことも提案しています。精神的にも頑張り過ぎている方は、自分のこころの状態に気づいていない場合が多いのです。

ホルモン治療

プロラクチンについては下垂体前葉負荷試験(TRH負荷試験)により、潜在性高プロラクチン血症の有無を判断して、原則的に、妊娠初期まで正常に維持するための薬物治療をします。

また、甲状腺ホルモンについては、ほとんどの方が正常範囲ですが、甲状腺機能が低めの方は血液の流れが悪く、着床不成功や流産の原因になってしまいます。ですから検査結果の判断が非常に難しいのです。年齢や季節によっても変化します。妊娠ごく初期は特に大切です。こまめな検査が必要です。

検査結果の判断・管理方法と治療方法には、専門的知識と多くの臨床経験が必要と考えています。

低用量アスピリン治療

凝固異常と抗リン脂質抗体陽性により、胎盤内に血栓ができると、血流が滞って胎児への栄養がスムーズに流れなくなってしまいます。その血栓を防ぐための治療が低用量アスピリン治療です。

ただし、異常がないのに安易に低用量アスピリンを飲むと、性器出血しやすくなり、子宮内に血腫ができやすく、かえって流産を引き起こしてしまいます。

低用量(子供用)アスピリンは血小板凝集能をブロックし、血液をサラサラにしますが、飲み過ぎると細動脈を細くしてしまい、血流が細くなり、治療効果がなくなります。ですから検査に基づいた適量を飲むことが大切です。

ヘパリン治療

血栓を防ぐ作用があるヘパリンを用いる治療です。低用量アスピリンと併用することで、高い治療効果が得られています。妊娠反応陽性後に、12時間ごとにヘパリンの皮下注射を行います。

重度の抗リン脂質抗体症候群の場合には出産直前まで投与することもありますが、現在、当院では妊娠10~12週くらいまでの投与がほとんどです。

太ももや腹部に自分で注射を打つ自己注射を行っています。クリニックで練習をしてから行うので難しくはありませんが、慣れないうちはアザができたりすることもあります。

ピシバニール免疫治療

妊娠の同種免疫異常と判断されたときに、夫リンパ球免疫治療を改良した方法として、日本独自で開発された治療方法です。

夫リンパ球免疫治療は、日本でも1000例以上実施され、1989~1991年厚生省研究班と2008~2010年厚労省研究班においても高い成功率と安全性が報告されています。

しかし、治療方法等の違いもあり、2000年頃に有効性を疑問視する研究報告が米国より発表されました。また、1990年代頃より夫の血液(リンパ球も含む)によるエイズ感染症等の副作用が心配され、現在は慎重に対応されています。

一方、ピシバニール治療に使うピシバニールとは、ストレプトコックス・ピオゲネスSu株という細菌をペニシリンと熱処理後に凍結乾燥した病原性のない菌体製剤ですので、感染の危険性はありません。細胞に対して毒性を持たないため、副作用の心配がほとんどありません。また、免疫原性が一定ですから免疫刺激(調節)するための治療に適しています。

この治療は妊娠の同種免疫異常の方に有効です。ですから、そのための検査が重要になります。検査には胎児側細胞を攻撃する炎症性サイトカインやナチュラルキラー細胞活性と、胎児側細胞の増殖と分化を助けるコロニー刺激因子(M-CSF)、計3種類以上の検査が必要と考えています。

当院のピシバニール治療は、治療対象かどうかの検査方法、治療方法、さらに管理方法において、当院オリジナルのものであります。また、非常に多くの治療実績があります。

ステロイド治療

妊娠の同種免疫検査にて、強力な免疫抑制が必要と判断されたとき、子宮内のステロイド洗浄治療や、ステロイド内服治療を行います。

近年、ステロイドよりさらに強力な免疫抑制剤であるタクロリムスという薬が開発され、Th1/Th2細胞比が高い患者さんに一部の施設で投与されています。原点は、Th1/Th2細胞比が高い不育症への夫リンパ球免疫療法の有効性を報告した2000年の論文です。

タクロリムスはステロイド以上に副作用が強く、安易に使うべきではないと考えます。2018年7月より薬の添付文書(公文書)では、(警告)として、「重篤な副作用もあるので緊急時に十分に措置できる医療施設及び本剤についての十分な知識と経験を有する医師が使用すること」 と書かれています。

免疫抑制が必要と判断されたならば基本はステロイド治療です。ただし、ステロイド薬としてのプレドニン(5mg)を1日1錠服用している程度では、ほとんど免疫抑制効果がありませんので投与量と投与方法が極めて重要です。ステロイド治療には、ステロイドの専門知識と治療経験が重要と考えています。

最終更新日: 2023年01月05日 14:04