着床障害については、胚を子宮内へ移植してから妊娠反応陽性までの期間におけるごく初期の流産の繰り返しととらえていますので、生物学的には不育症も着床障害もほぼ同じと考えています。ですから当院での不育症・着床障害の検査は同じです。
ただ、流産の時期の違いにより原因の頻度の違いはあります。着床障害の場合、自己抗体、凝固の異常よりも、同種免疫の異常の割合が高いのです。また、心理面では不安要因の種類と程度の違いもあります。
表1が当院での検査項目ですが、すべてを検査するわけではありません。費用と治療効果を考えて個別に提案しています。
表1 当院の検査項目
領域 | 検査項目 | 内容 | 保険 |
プロラクチン | 下垂体前葉負荷試験 | 愛情ホルモン | ◇ |
甲状腺 | 遊離サイロキシン(FT4) | 末梢循環(子宮) | ◇ |
甲状腺刺激ホルモン(TSH) | 末梢循環(子宮) | ◇ | |
抗ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体) | 末梢循環(子宮) | ||
凝固 | 第12凝固因子 | 血栓性素因 | |
プロテインS活性 | 血栓性素因 | ||
自己抗体 | ループスアンチコアグラント(LAC) | 抗リン脂質抗体 | ◇ |
抗CL・β2GPI抗体・IgG | 抗リン脂質抗体 | ◇ | |
抗カルジオリピン抗体・IgG | 抗リン脂質抗体 | ||
抗カルジオリピン抗体・IgM | 抗リン脂質抗体 | ||
抗PS・プロトロンビン抗体・IgG | 抗リン脂質抗体 | ||
抗SS-A/Ro抗体 | 先天性心ブロック | ||
同種免疫 | マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF) #1 | 生着反応 | |
ナチュラルキラー細胞活性(NK) #2 | 拒絶反応 | ||
腫瘍壊死因子(TNF-α) #3 | 拒絶反応 | ||
Th1/Th2細胞比(IFNγ) #4 | 拒絶反応 | ||
細胞外基質 | 形質転換増殖因子(TGF-β1) | 組織修復 | |
一般血液 | 末梢血液一般 | 一般血液状態 | ◇ |
末梢血液像 | 一般血液状態 | ||
心理 | 生殖精神分析 #5 | 生殖ストレス | |
遺伝子 | 本人の染色体検査 | 異常率4% | |
夫の染色体検査 | 異常率3% | ||
子宮形態 | 超音波検査 | 子宮筋腫等 |
◇マークは保険診療でも可能です。 2020年7月1日より |
検査費用については、多くの場合、自費診療検査が約6~9万円、保険診療検査が約1万円です。
#1 マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の説明文
マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)は、妊娠初期の胎盤になる細胞を増殖・分化させる働きをもっています。受精卵も産生していますが、妊娠ホルモンの影響下で子宮内膜の多くの細胞(マクロファージ等)が産生しています。妊娠マウスでは、子宮内M-CSFの濃度が約1000倍まで上昇していることも報告されています。大量のM-CSFは、妊娠維持に必須であるようです。
#2 ナチュラルキラー細胞活性(NK)の説明文
妊娠初期の子宮内膜細胞の約30%が白血球細胞です。その中の約70%がNK細胞であり、子宮内膜のNK細胞は血管の形成や、胎盤になる細胞の増殖を助けており善玉です。しかし物理的、生物学的、心理的ストレスがかかると、悪玉NK細胞が増えて、胎盤になる細胞を攻撃してしまいます。#3 腫瘍壊死因子(TNF-α)の説明文
腫瘍壊死因子(TNF-α)は、以前より動物実験で流産を引き起こすことが知られていました。異物(例えば腫瘍)を壊死させたり、血管障害を起こしたりする物質です。最近、高感度の検査ができるようになった免疫細胞放出物質です。また、TNF-αを抑える治療が不育症の新しい治療として、米国で臨床研究中です。#4 Th1/Th2細胞比の説明文
タイプ1ヘルパーT免疫細胞(Th1)が出すメッセージ物質(IFNγ)は、細菌やウイルスなどの異物に反応し攻撃します。Th2免疫細胞が出す物質(IL4)は、カビや花粉などのアレルゲンに反応します。Th1/Th2細胞比がTh1優位になると胎児へ攻撃的になり、流産の原因になると考えられています。ただ、あくまでも免疫系の割合の変化を見ているだけですので、インターフェロンγ(IFNγ)を直接検査したほうが良いと考えられます。
#5 生殖精神分析の説明文
当院の生殖精神分析は5つの性格特性因子としての、① 想定外出来事への受け入れ度
② 情緒不安度
③ 不信感度(猜疑心、嫉妬心)
④ 罪悪感度
⑤ 緊張度
と、総合的な不安因子のプロフィールを明らかにします。
また、悲観的思考、社会的支援への不満、抑うつ状態の程度と、
流産の心理的影響度に関する心理社会因子を分析します。