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29. アスピリンジレンマ

抗リン脂質抗体陽性による不育症の世界的な標準治療法は、
低用量(少量)アスピリンとヘパリンの併用療法です。

しかし、アスピリンの飲む量と使う時期は、
患者さんの状態によって、変える必要があります。


低用量アスピリンの最も効果的な薬の量は、

実は、 ア ス ピ リ ン ジ レ ン マ 

といって、なかなか難しいのです。


アスピリンは、ご存知のように、古くから
鎮痛剤として広く使われている物質です。


1970年にワイスという医師が、
鎮痛効果とは別に、
アスピリンの血栓症を防ぐ効果に気づき報告しました。
しかし、なぜアスピリンが血栓形成を予防するのかは
謎のままでした。


1975年、ロースらにより、
アスピリンは血小板内のある酵素を
不可逆的に抑制することにより、
血小板の機能を抑制して血栓を防ぐ
という事実が報告されました。


1976年、バーネは、血管壁内の同じ酵素に対しても、
アスピリンの抑制作用が発揮され、
血管が収縮する
ということを報告しました。
この事実は、アスピリンは血栓形成を防ぐのではなく、
血栓形成を助長すると考えられるのです。


この二つの事実が、混乱をまねき、
いわゆる 

ア ス ピ リ ン ジ レ ン マ

と言われる由縁になっているのです。


アスピリンは、血小板の機能を抑制して、
血液をサラサラにしますが、
同時に、血管を収縮させますから、
血液をドロドロにもするのです。


しかし、その後の研究により、
アスピリンに対する血小板と血管壁の感受性
が違うことが判明して、
血小板には抑制効果を示すが、
血管壁への収縮効果を最小限にとどめる

ア ス ピ リ ン の 量 が

現在も、問題となっているのです。


現在、低用量アスピリンとして、

バファリン(81mg)とバイアスピリン(100 mg)

がよく処方されています。


この二種類のお薬は、
狭心症、心筋梗塞、虚血性脳血管障害の患者さんの
血栓予防効果(血小板の抑制効果)があるため、
そのような患者さんに対しては、保険適用されています。
用法・用量は、通常、成人には1日1回連日経口投与です。

しかし、1日1回連日服用という量は、
脳・心臓血管障害という病的血管を持つ患者さんに対しての
有効な量なのです。

正常血管を持つと考えられる多くの不育症患者さんへの
有効な量とは、当然違うのです。


名古屋市立大学病院の杉浦教授らと
私との共同研究の結果では、
抗リン脂質抗体の強陽性(内科的抗リン!?)以外の
弱陽性(産科的抗リン!?)患者さんに対して、
アスピリン40mg単独療法でも成功率は80%以上でした。
もちろん、支持的精神療法も併用されていました。
この結果は、
1998年、世界産婦人科雑誌(Int J Gynecol Obstet)
に報告されています。


不育症の患者さんが服用する時期については、
アスピリンは血小板にくっついたら離れませんので、
血小板の寿命が約10日ですから、
アスピリンの蓄積効果から考えて、
妊娠の可能性がある周期の基礎体温の高温層と
妊娠反応陽性後が良いと、
私は考えています。


いつまで服用するかについては、
一般的には妊娠28週までとされていますが、
私の長年の臨床経験と実績から、
抗リン脂質抗体弱陽性患者さんに対しては、
妊娠16週以後の服用を中止しても問題ないと
考えています。


また、副作用に関しては、
妊娠初期の低用量アスピリン服用による
先天異常児の出産率の増加はみられなかったことが、
2002年、米国産婦人科雑誌(Am J Obstet Gynecol)
に報告されています。

最終更新日: 2021年08月25日 13:22