主婦の友社『赤ちゃんが欲しい』35号より転載(2008年4月発行)
4.ストレスが要因になる場合も…
流産、死産を何度も体験した人は、「次の妊娠」は期待とともに不安が大きいもの。それが体にも影響を及ぼす可能性を知っておきましょう。
なぜストレスが要因になるの?
血管収縮で血行が悪化、卵巣や免疫機能に影響も
緊張するとアドレナリンが上昇、それによって毛細血管が萎縮し、血行が悪くなります。妊娠中であれば、胎児への栄養がスムーズに運ばれずに流産の危険が……。また、ストレスでプロラクチンが上昇すると、卵巣機能にブレーキがかかり、妊娠維持に働く黄体ホルモンの分泌が低下します。さらに、アドレナリンとプロラクチンの受容体を持つ免疫細胞・NK(ナチュラルキラー)細胞が活性化。この数値が高すぎると、妊娠維持にマイナスの影響を及ぼします。胎盤内の血管内皮細胞が母体から胎児自身の細胞におきかわる妊娠16週までは要注意。
流産に影響する因子とは?
精神科医との研究からわかった3つの傾向
約10年間の研究で、流産に影響する心理的な因子を次のように分析しました。
1 【妊娠前、妊娠初期に抑うつ状態がある場合】……気持ちが落ち込み、悲観的になって、前向きに受けとれない状態です。
2 【社会的支援への不満がある場合】……周囲のサポートが自分にとって心地よいと感じられない状態です。
3 【不育症の危険因子の持続性がある場合】……過去の流産の原因が次の妊娠でも起こるのでは、という不安。その原因が治療できるかの見通しにも関係してきます。
ストレスをかかえ込みやすいタイプは?
理想とする家庭観とのギャップに苦しむことも
私がとったアンケートで、夫の実家への帰省について聞くと「お正月、お盆のみ」と、年1回程度の人が多く、なかには「帰省までに妊娠したい」「子どもについて聞かれると思うだけで緊張する」という人が……。実家や親戚との関係が負担になっているのがうかがえます。
また、学生時代から「結婚したらすぐに子どもを」と考えていた人は、子どもがいないと理想の家庭観・育児観がくずれてしまい、気持ちが不安定になる傾向があります。現代はさまざまな生き方があるので、ほかの可能性を考えることも大事といえます。
ストレスが要因の場合の治療法は?
妊娠前からの薬物療法、妊娠後はいつもの生活を
私の場合、初診で心理的ストレスの程度を探り、状況に応じて抗不安薬を処方します。薬の有益性と危険性を説明しますので、納得して服用することが大事です。妊娠前、ストレスでつらいときに服用してみると薬の効果が実感でき、妊娠初期の服用に対する抵抗感もやわらぐと思います。胎児への副作用については、一般集団における先天異常の発現率2~3%と変わりません。
以前は妊娠初期から約1カ月間の入院をすすめていました。いつでも医師や看護師に相談できる、超音波検査を受けられるという安心感が目的です。安静にすると不安になる人は、多少無理をしてもいつもの生活を続けるほうがいいのです。
19世紀後半に発表された不育症の研究は、流産を重ねて精神的にダメージを受けた女性のケアを目的にしたものでした。ストレスや心理のことは数値化がむずかしく成果がわかりにくいため、現在は免疫の観点からの研究が主流です。しかし、実際に何度も流産、死産を繰り返して涙を流しているご夫婦がたくさんいるのですから、心理的なアプローチにもっと注目してもいいと思うのです。私は、傷ついた心の修復を少しでもできれば、という思いで治療にあたっています。
不育症の場合、理想的と思われる治療をしても成功率は1回の妊娠につき約80%。残りの20%は運命(胎児の偶然的染色体異常)というのでしょうか、それを受け入れる覚悟が大事です。物の見方が変わると気持ちに余裕が生まれ、次に向かう勇気につながるようです。力を合わせて治療にとり組む過程が、ご夫婦にとって意味あるものであってほしいと願います。
ストレスをためない日常生活のポイント
つらいことがあったり、ショックなことを言われたとき、自分ががまんすれば……とひとりでかかえこんでいませんか? いつもの生活をちょっとだけ変えてリラックスしてみては?
●ご主人にやさしく接して
自分がつらいときこそ、ご主人にも目を向けて。肩をもんだり体にさわってぬくもりを感じればホッとするのはもちろん、そのぬくもりはもっと大きくなって返ってくることでしょう。
●血行をよくしよう
手足や首などを冷やさないように心がけ、日ごろから歩いたり、気持ちのよい運動で血行をよくしましょう。入浴もおすすめですが、長ぶろは体力を消耗するのでほどほどに。
●苦痛に感じる帰省は見直す
お盆や正月の夫の実家への帰省で「子どもは?」「早く孫の顔を見たい」などの言葉がつらいことも。夫婦で旅行へ出かける、妻の実家に帰省するなど、パターンを変えてみては。
●多様な価値観を見つめてみる
世の中にはいろんな人、いろんな家族がいて、価値観は人それぞれ、生き方も実に多様です。赤ちゃんを待つこの時期、自分の家族観や育児観を見直すチャンスととらえてみては。
●妊娠してもいつもどおりに
安静にするとかえって意識してしまうので、できるだけ、いままでどおりの生活を続けましょう。緊張するとのどの渇きを感じないことがあるので、1日に水を1リットル以上飲むことを心がけて。




