主婦の友社『赤ちゃんが欲しい』35号より転載(2008年4月発行)
3.検査と治療法は…
次回妊娠の際、それを維持するために「妊娠前から流産を予防する」のが不育症治療の考え方です。要因をさがし出す検査は欠かせません。
危険因子を見つけ出して予防するのが治療の基本
不育症の治療は、危険因子を見つけ出して、それを予防するという「予防医療」が基本です。これはいわば保険の考え方で、危険や不安が大きいほど念のための保険金を高くしよう、つまり治療を過剰にしようというもの。それにはまず、検査で危険因子を見つけ出すことが重要です。検査の多くは血液検査ですが、予防医療ということもあり、保険がきかない項目も多いのが現状です。
100%流産に至る因子は存在しない
不育症につながる先天的な因子は染色体異常と子宮形態異常で、それ以外の多くは後天的、偶発的に起こるものです。
染色体検査は、ぜひご夫婦で受けてください。もし、どちらかに染色体異常が見つかったら、それを受け止めることで治療へ向かう覚悟を持てます。現在のところ「100%流産を引き起こす因子」はありません。子宮奇形でも約60%が手術せずに出産することができます。しかし多くの場合、危険因子は一つではなく複数あわせ持つのが現状。さらに心理的ストレスも加わり、問題が複雑になっているようです。
予防医療は過剰治療。グレーゾーンなら治療を
複数の危険因子や「保険を多くかける」という考え方から、治療は原則として過剰に行います。たとえば甲状腺ホルモン。内科の観点では身体的に異常がなくても、正常値より低ければ薬を投与して正常値にする――これが過剰治療の意味です。75%の成功率が80%になるなら複数の治療法にチャレンジするべきと考えます。
不育症の場合、妊娠がわかると不安感が強くなるので、妊娠前から精神の安定にとり組むことも予防の一つといえます。
| 不育症の検査と治療の考え方 |
|---|
| ・不育症は一般的な病気ではない。 |
| ・検査は、原因というよりも危険因子を見つけるために行う。 |
| ・100%流産を引き起こす危険因子は、ほとんどない。 |
| ・不育症の多くは、複数の危険因子が混在している。 |
| ・治療法は複数あり、原則として過剰治療となる。 |
| ・治療法は、費用対効果や効果とリスクを踏まえて選択。 |
| ・不育症は予防医療である。 |
| 不育症の身体的検査(スクリーニング) |
|---|
| ・夫婦の染色体血液検査:G分染法 |
| ・子宮形態検査:子宮卵管造影、MRI、子宮ファイバーなど |
| ・卵巣機能検査:高温相中期のP4、E2 |
| ・プロラクチン検査:TRH負荷試験 |
| ・甲状腺検査:FT4、TSH、TPO抗体、等 |
| ・糖脂質代謝検査:血糖、HbA1c、等 |
| ・血液凝固系検査:APTT、プロC活性、第12因子、等 |
| ・感染症検査:クラミジア抗体IgA |
| ・自己抗体検査:ANA、LAC、CL抗体IgG、PE抗体IgG、PS・PT抗体IgG |
| ・免疫系検査:NK細胞活性、TGF-beta1 |
現在行われている治療法
次回妊娠の際、それを維持するために「妊娠前から流産を予防する」のが不育症治療の考え方です。要因をさがし出す検査は欠かせません。
抗リン脂質抗体の治療
低用量アスピリン療法
胎盤内に血栓ができると、血流が滞って胎児への栄養がスムーズに流れなくなってしまいます。その血栓を防ぐための治療で、低用量アスピリンを服用します。薬剤名はバファリン81mg、バイアスピリン100mgなどで、1日半錠(または1錠)が目安。妊娠前の高温期から服用を始め、妊娠16週くらいまで服用します。状況により、さらに長く服用を続ける場合もあります。
凝固因子異常の治療
ヘパリン療法
血栓を防ぐ作用があるヘパリンを用いる療法。低用量アスピリン療法と併用することで、高い治療効果が得られています。妊娠反応が出てすぐから、12時間ごとにヘパリンの皮下注射を行います。重度の抗リン脂質抗体症候群の場合には出産直前まで投与することもありますが、現在、私の場合は妊娠10~12週くらいまでの投与がほとんどです。
現在では、太ももや腹部に自分で注射を打つ自己注射を行っています。病院で練習をしてから行うのでむずかしくはありませんが、慣れないうちはアザができたりすることもあります。
原因不明の場合、慎重に行う
夫リンパ球免疫療法
夫の血液中のリンパ球を分離して、それを妻に注射する治療法。免疫的(HLA抗原)に似た夫婦が流産しやすいことから、妻に夫リンパ球を輸血することで抗体をつくり、胎児を受け入れやすくするという考え方で行われてきました。
1980年代から世界的に行われたこの治療法は、日本でも1000例以上実施され、約80%という高い成功率をあげました。しかし、有効性を否定する研究や、夫の血液による感染症の心配があり、現在は慎重に対応されています。また、抗リン脂質抗体など自己抗体がある場合には、かえって症状を悪化させることがあり注意が必要です。
当時の高い成功率は、「この方法はきく」と信じて治療を受けることで、精神・神経系にうまく働く「プラセーボ効果」があったものと考えられます。現在はNK細胞活性が高い人に免疫を活性化する薬剤を妊娠前と妊娠初期に少量注射する方法(スギ花粉症の人にスギを少量注射してスギへの過剰反応を抑える方法とよく似ている)がありますが、まだ一般的ではありません。




