052-733-2198
月・火・金 午前 9:30~12:30 午後 3:00~5:30/木(第1除く)、土、祝日は午前のみ

きちんと知りたい不育症

赤ちゃんを授かったにもかかわらず、流産や死産で失ってしまうのは悲しくつらいもの。
それを繰り返す「不育症」については、まだまだ知られていないのが現状です。
不育症の原因、その検査法や治療法、ストレスとの関係について、2018年までの知見をもとにお話しします。
流産、化学流産を繰り返し、先が見えない今、まずは読んでみてください。

おなかの赤ちゃんが育たない「不育症」
 妊娠してもおなかの赤ちゃんが育たずに、流産や死産を繰り返してしまった状態を「不育症」といいます。具体的には2回以上、流産・死産を経験されたならば、それはもう不育症です。その原因が子宮内環境にあるのか、受精卵にあるのかが問題なのです。
 流産する確率は妊娠時の年齢に比例して10~30%、その50~70%は胎児の染色体異常(運命)による、いわば偶然のでき事。それ以外にも今後も流産が連続するような危険因子(子宮内環境と受精卵の必然的異常)があるかもしれませんが、その原因をくわしく調べるのは数回の流産を経験した状態の時が一般的です。近年は不妊治療によって、自然妊娠より早く妊娠できることも影響して、流産を繰り返す人がふえています。


子宮内環境を悪化させる心理的ストレス
 流産とは、子宮内で赤ちゃんがうまく育たなくなるために起こるもの。その要因の多くに、ホルモン分泌や免疫状態の変化があります。流産や死産を繰り返した女性は、次の妊娠への不安や周囲の声をプレッシャーに感じるなど、大きなストレスにさらされています。こうした状況がホルモンや免疫や自律神経の変調を招き、赤ちゃんの成長を止めてしまう場合もあるのです。


流産の手術によってもストレスが増加
 突然、赤ちゃんを失うショックと悲しみ……。加えて、多くの場合、子宮内容物をとり出す流産手術もしなければなりません。手術は麻酔を使いますが痛みもあるため、心身がさらに傷ついてしまいます。
 近年、ごく初期の流産の場合には、自然の排出を待つ方法や、子宮内膜の炎症が少ないといわれている吸引手術法が行われるようになってきています。
しかし、身体への負担軽減だけではなく、傷ついた心のケアにとり組むことが、次の妊娠への不安をやわらげ、治療効果を上げると私は確信しています。
今後も流産が連続するような不育症の危険因子には次のようなものがあります。これらがいくつも重なっていたり、また、特に原因が見つからなかったりすることもあります。

内分泌異常
プロラクチン、甲状腺ホルモンなど
 
 脳下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンは、別名、愛情ホルモン、ストレスホルモンとも言われており、日内変動により夜中に高くなります。乳腺を刺激する働き以外に、卵巣機能を抑制したり、免疫細胞を刺激したりする働きを持っています。値が高いと不妊症、不育症の原因になるのです。二人目の不妊症、不育症の原因でもあります。また、ストレスにより高値になってしまいます。
 そして、ごくわずかな甲状腺機能の低下であっても、妊娠初期の流産の危険因子であることが、2012年の米国内分泌学会ガイドラインに報告されています。妊娠初期には甲状腺ホルモンの需要が約1.4倍に増大しているのです。
プロラクチンも甲状腺ホルモンもストレスと関係があり、甲状腺ホルモンの数値が低いと、体が冷えたり精神的に不安定になることも。これらは薬物療法で改善していきます。


凝固因子異常
血液が固まって胎盤に血栓ができやすくなる

 血液中の凝固因子(血液を固めて血を止める働き)に異常があると、血のかたまりの血栓がつくられやすくなります。妊娠中に胎盤内に血栓がつくられると、胎児に栄養が運ばれなくなり、流産や死産を招くおそれがあります。


抗リン脂質抗体
自己免疫の異常で血栓がつくられやすくなる

 自己免疫異常の一つで、「抗リン脂質抗体症候群」と流産や死産との関係が知られています。免疫は本来、外からのウイルスなどから身を守る体の防衛システム。この免疫に異常があると、自分の体や組織を異物のように認識して攻撃してしまうことがあるのです。自己免疫異常がある場合、血液検査で自己抗体が検出されます。自己抗体にはさまざまな種類があり、抗リン脂質抗体があると血栓ができやすく流産・死産を引き起こすと考えられています。


同種(拒絶)免疫異常
胎児の夫由来部分に過剰に反応してしまう

 お腹の中の赤ちゃんや受精卵の半分は、父親由来の組織です。つまり生物学的に言えば、赤ちゃんは母体にとって、異物と見なされてしまう危険性があります。しかし、妊娠にはそれを阻止し、赤ちゃんを体内で育てるためのメカニズムがあります。この妊娠維持のメカニズムがうまく機能せず、赤ちゃんの夫由来部分をそのまま異物と認識してしまうことで流産にいたると考えられています。


ストレス
ストレスは体調変化にもつながる

 多くの人がかかえる心理的な「ストレス」。これも重要な危険因子のひとつなのです。強い緊張により血管が収縮して血流を悪くしたり、またホルモン分泌や同種(拒絶)免疫系にも影響を及ぼすからです。不育症の人は赤ちゃんを失った悲しみや、「自分のせいで流産したのでは」という罪悪感などで精神的に追い詰められている人が少なくありません。妊娠初期には不安が高まり、下腹部痛、不眠など体調変化につながることも珍しくないのです。


子宮形態異常
着床や胎児の成長に影響する

 双角子宮、単角子宮、中隔子宮、あるいは子宮筋腫など、子宮形態に異常があると、赤ちゃんに栄養がうまく運ばれないなどで流産しやすくなります。形成手術により次の妊娠に備える場合もありますが、手術をしなくても約60%は妊娠継続が可能です。


染色体異常
夫婦の染色体異常が一定の確率で引き継がれる

 夫婦いずれかに染色体異常(約3~4%)があれば、受精卵にも一定の確率で染色体異常が起こり、流産の要因になります。流産率は、夫婦いずれかの染色体異常で約50%。これはあくまでも確率の問題であり、出産できないわけではありません。一部に着床前診断の適応となるケースもありますが、体外受精の必要があるため慎重な判断が求められます。
次の妊娠の際、それを維持するために「妊娠前から流産を予防する」のが不育症治療の考え方です。原因をさがし出す検査は欠かせません。

危険因子(原因)を見つけ出して予防するのが治療の基本
 不育症の治療は、危険因子を見つけ出して、それを予防するという「予防医療」が基本です。これはいわば生命保険の考え方で、危険や不安が大きいほど念のための保険金を高くしよう、つまり治療を過剰にしようというもの。それにはまず、検査で危険因子を見つけ出すことが重要です。検査の多くは血液検査ですが、予防医療ということもあり、健康保険がきかない項目も多いのが現状です。


100%流産に至る因子はほとんど存在しない
 不育症につながる先天的な因子は夫婦の染色体異常と子宮奇形で、それ以外の多くは後天的、偶発的に起こるものです。現在のところ「100%流産を引き起こす因子」はほとんどありません。子宮奇形でも約60%が手術せずに出産することができます。しかし多くの場合、危険因子は一つではなく複数あわせ持つのが現状。さらに心理的ストレスも加わり、治療が複雑になっているのです。


予防医療は過剰治療。グレーゾーンなら治療を
 予防治療は原則として過剰に行います。たとえば甲状腺ホルモン。内科の観点では母体の身体的に異常がなくても、検査上、潜在性機能低下と考えられれば、胎児への栄養補給のため積極的に治療します。これが過剰治療の意味です。不育症の場合、妊娠がわかると不安と緊張が強くなりますので、妊娠前から精神の安定にとり組むことも予防治療の一つといえます。
ホルモン治療
プロラクチンについては下垂体前葉負荷試験により、わずかな高値であっても薬物治療をします。また、甲状腺ホルモンについては、検査会社や、採血時期により変化しますので、慎重に判断して、過剰に薬物治療します。治療中は検査をこまめにして、薬物量を変化させます。特に妊娠したら即、再検査します。


抗リン脂質抗体と凝固因子異常の治療
低用量アスピリン療法
 胎盤内に血栓ができると、血流が滞って胎児への栄養がスムーズに流れなくなってしまいます。その血栓を防ぐための治療で、低用量アスピリンを服用します。薬剤名はバファリン81mg、バイアスピリン100mgなどで、1日半錠(または1錠)が目安。妊娠前の高温期から服用を始め、まずは、妊娠16週(または妊娠28週)まで服用します。状況により、さらに長く服用を続ける場合もあります。

ヘパリン療法
 血栓を防ぐ作用があるヘパリンを用いる療法。低用量アスピリン療法と併用することで、高い治療効果が得られています。妊娠反応が出てすぐから、12時間ごとにヘパリンの皮下注射を行います。重度の抗リン脂質抗体症候群の場合には出産直前まで投与することもありますが、現在、当院では妊娠10~12週くらいまでの投与がほとんどです。太ももや腹部に自分で注射を打つ自己注射を行っています。クリニックで練習をしてから行うのでむずかしくはありませんが、慣れないうちはアザができたりすることもあります。


ピシバニール免疫治療
 ピシバニールとは、ストレプトコックス・ピオゲネスSu株をペニシリンと熱処理後に凍結乾燥した病原性のない菌体製剤です。抗ガン剤として日本で開発された免疫系を活性化する製剤です。ガン細胞や、ときに正常細胞の代謝を抑制するような一般的な抗ガン剤とは違い、細胞に対して毒性を持たないため、副作用の心配がほとんどありません。同種免疫検査として、マクロファージコロニー刺激因子、ナチュラルキラー細胞活性、ヒトインターフェロンγ、場合によりTh1/Th2細胞比、インターロイキンー4を調べ、卵を育てるために必要な胎盤になる細胞が子宮内で育ちにくい子宮内免疫状態と判断されたときに、その状態にあった独自の方法(量と時期と回数)により、子宮内免疫状態を適正化することが期待されます。


ステロイド治療
 上記の同種免疫検査にて、強力な免疫抑制が必要と判断されたとき、子宮内のステロイド洗浄治療や、ステロイド内服治療を行います。近年、ステロイドより強力な免疫抑制効果があるタクロリムスという薬が開発され、Th1/Th2細胞比が高い患者さんに投与されています。原点は、Th1/Th2細胞比が高い不育症への夫リンパ球免疫療法の有効性を報告した2000年の論文です。
 タクロリムスは魅力的な薬ですが、副作用も強く、安易に使うべきではないと考えます。2018年7月より薬の添付文書(公文書)では、「治療上の有効性が危険性を上回ると判断される場合のみ投与すること」と改訂されましたが、同時に(警告)として、「重篤な副作用もあるので緊急時に十分に措置できる医療施設及び本剤についての十分な知識と経験を有する医師が使用すること」と書かれています。2018年6月までは「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと(禁忌)」となっていました。
タクロリムス治療の前に、免疫抑制が必要と判断されたならば、ステロイド治療が良いと考えられます。ただし、ステロイド薬としてのプレドニン(5mg)を1日1錠服用している程度では、ほとんど免疫抑制効果がありませんので、投与量と投与方法が極めて重要です。医療者の経験と知識が必要です。


夫リンパ球免疫治療
 夫の血液中のリンパ球を分離して、それを妻に注射する治療法。免疫学的(HLA抗原)に似た夫婦が流産しやすいことから、妻に夫リンパ球を輸血することで遮断抗体をつくり、胎児を受け入れやすくするという考え方で行われてきました。1980年代から世界的に行われたこの治療法は、日本でも1000例以上実施され、約80%という高い成功率をあげました。しかし、2000年頃の有効性を疑問視する研究や、夫の血液による感染症(特にエイズ感染)の心配があり、現在は慎重に対応されています。また、抗リン脂質抗体など自己抗体がある場合には、かえって病態を悪化させることがあり注意が必要です。2004年、米国の有名なメイヨクリニックからの論文では、遮断抗体を誘導した夫リンパ球治療は無作為二重盲検試験においても有効であったと報告されています。


大量免疫グロブリン治療
 1990年代より夫リンパ球免疫治療の代わりとして世界的に行われるようになりました。大量の免疫グロブリン点滴治療(原則5日間)の薬効は、免疫の異常を和らげる効果です。病的自己抗体を抑制し、過剰な免疫的炎症を正常化する働きがあります。臨床的には原因が不明な難治性の方へ治療されていますが、大量治療でないと効果はないようですので、難点として高価(自費治療で約100万円)である点です。
流産、死産を何度も体験した人は、「次の妊娠」は期待より不安が大きいもの。それが体にも影響を及ぼす可能性を知っておきましょう。

なぜストレスが危険因子(原因)になるのか?
血管収縮で血行が悪化、子宮・卵巣や免疫機能に影響も

 緊張すると交感神経がピリピリして、それによって細動脈(栄養血管)が萎縮し、血行が悪くなります。妊娠中であれば、胎児への栄養がスムーズに運ばれずに流産の危険が……。また、ストレスでプロラクチンが上昇すると、卵巣機能にブレーキがかかり、妊娠維持に働く黄体ホルモンの分泌が低下します。さらに、アドレナリンとプロラクチンの受容体を持つ免疫細胞・NK(ナチュラルキラー)細胞が活性化。この数値が高すぎると、妊娠維持にマイナスの影響を及ぼします。胎盤内の血管内皮細胞が、母体細胞から胎児自身の細胞におきかわる妊娠10~16週までは要注意。


流産の原因になる心理社会因子とは?
精神科医との10年間の研究からわかった3つの因子

 1994年~2004年の研究で、流産の原因になる心理的な因子を次のように分析しました。
(1) 【妊娠前、妊娠初期に抑うつ状態である場合】
 ……気持ちが落ち込み、悲観的になって、前向きに受けとれない状態です。
(2) 【社会的支援への不満がある場合】
 ……周囲のサポートが自分にとって心地よいと感じられない状態です。
(3) 【不育症の危険因子に持続性があると考える場合】
 ……過去の流産の原因が次の妊娠でも起こるのでは、という不安。その原因が治療できるかの見通しにも関係してきます。


ストレスをかかえ込みやすいタイプは?
理想とする家族観とのギャップに苦しむことも

 私たちのアンケート調査で、夫の実家への帰省について聞くと「お正月、お盆のみ」と、年1~2回程度の人が多く、なかには「帰省までに妊娠したい」「子どもについて聞かれると思うだけで緊張する」という人が……。実家や親戚との関係が負担になっているのがうかがえます。また、学生時代から「結婚したらすぐに子どもを」と考えていた人は、子どもがいないと理想の家族観・育児観がくずれてしまい、気持ちが不安定になる傾向があります。認知療法として、現代はさまざまな生き方がありますので、ほかの可能性も考えてみることも大事といえます。
妊娠前からの支持的精神療法、薬物療法、妊娠後はいつもの生活を

 当院では、初診時に診察等により心理的ストレスの程度を分析し、状況に応じて精神薬を処方することもあります。薬の有益性と危険性を十分説明しますので、納得して服用していただくことが大事です。妊娠前、ストレスでつらいときに服用してみると薬の効果が実感でき、妊娠初期に服用する勇気がでてきます。ご自身の不安を和らげるためではなく、赤ちゃんへの栄養血管を細くしないための治療なのです。身体的に安静にすると不安になる人は、多少無理をしてもいつもの生活を続けるほうがいいと考えています。精神的な安静が大事です。妊娠したら、水分を一日1.5リットル以上、1~2時間ごとに飲んでみてください。消化管は副交感神経支配であるため細動脈の狭小化を防ぐ効果があり、また、脱水を防ぐことにより胎児への栄養補給が維持されますから。
不育症の治療はご夫婦で命の意味を考えること

 1950年代に発表された世界で最初の不育症の研究は、流産を重ねて精神的にダメージを受けた女性のケアを目的にしたものでした。ストレスのことは数値化がむずかしく成果がわかりにくいため、現在は遺伝や免疫の観点からの研究が主流です。しかし、実際に何度も流産、死産を繰り返して精神的に苦しんでいるご夫婦がたくさんいるのですから、心理的な治療にもっと注目してもいいと思うのです。私は、傷ついた心の修復を少しでもできれば、という思いで治療にあたっています。

 不育症の場合、理想的と思われる治療をしても成功率は1回の妊娠につき年齢により約60~90%。残りの10~40%は運命(胎児の偶然的染色体異常)というのでしょうか、それを受け入れる覚悟が大事です。物の見方を変えると気持ちに余裕が生まれ、次に向かう勇気が湧いてきます。力を合わせて治療にとり組む過程が、ご夫婦にとって意味あるものと確信しています。
つらいことがあったり、ショックなことを言われたとき、自分ががまんすれば……とひとりでかかえこんでいませんか? いつもの生活をちょっとだけ変えてリラックスしてみては?

ご主人にやさしく接して
自分がつらいときこそ、ご主人にも目を向けて。肩をもんだり体にさわってぬくもりを感じればホッとするのはもちろん、そのぬくもりはもっと大きくなって返ってくることでしょう。

血行をよくしよう
手足や首などを冷やさないように心がけ、日ごろから歩いたり、気持ちのよい運動で血行をよくしましょう。入浴もおすすめですが、長ぶろは体力を消耗するのでほどほどに。

苦痛に感じる帰省は見直す
お盆や正月の夫の実家への帰省で「子どもは?」「早く孫の顔を見たい」などの言葉がつらいことも。夫婦で旅行へ出かける、妻の実家に帰省するなど、パターンを変えてみては。

多様な価値観を見つめてみる
世の中にはいろんな人、いろんな家族がいて、価値観は人それぞれ、生き方も実に多様です。赤ちゃんを待つこの時期、自分の家族観や育児観を見直すチャンスととらえてみては。

妊娠してもいつもどおりに
身体を安静にすると、かえって意識してしまうので、できるだけ、いままでどおりの生活を続けましょう。緊張するとのどの渇きを感じないことがあるので、1日に水分を1.5リットル以上飲むことを心がけて。

診療案内

交通アクセス はこちら

 
午前 9:30~12:30
午後 3:00~5:30

ご相談窓口

詳細はこちら

E-MAIL
メールはこちらから
(24時間年中受付)

頻度が高い相談内容を紹介しています。よくあるご相談をご参照ください。
受診を希望される方は、ご予約についてをご覧ください。

再診について はこちら

初診予約システムのご利用には予約番号が必要です。予約番号をお持ちでない方は初診案内をご覧のうえ、お申し込みください。